コラム

JunJun先生の第15回 Jun環器講座

長寿の秘訣?③ ~高血圧治療に纏わるエトセトラ(その5)~
船戸クリニック 循環器内科 中川 順市

 (先回のコラムの中で、“通常の高血圧特発性高血圧、特定の原因が別にある高血圧は二次性高血圧と呼ばれる”という内容を書きましたが、特定の原因がない通常の高血圧は、医学用語として正確には特発性高血圧ではなく、本態性(ほんたいせい)高血圧と呼ばれます。特発性は、特定の原因がないということでは本態性と同じ意味合いではあるものの、一般的な表現ではないため、この場をお借りし、お詫びして訂正いたします)。


 さて、過去2回、隔回で、長寿の秘訣?と銘打って、質の良い長生きに繋がる可能性のある事柄について書いてきました。その中で、どうやら秘訣として、血圧を適正に保つこと魚油を摂取することが良さそうであり、肥満がよろしくない、ということは解っていただけたのではないかと思います。
「でも “太っていると身体によくない”、なんてことは昔から解っていて当たり前のことではないのか?」と思われる方は多いでしょう。実際、かのヒポクラテスが数千年前に既に「体質的に肥満した人は、痩せた人よりも急死する事が多い」と言っています。しかし、最近まで、経験論的にそうは言われてきたものの、今一つ明確な根拠、証拠に乏しかったことは事実です。しかし、特にここ十数年の実験や研究により、データがさらに積み重ねられ、その仕組みも解明されてきました。それに関連し、先々回のコラム“長寿の秘訣?②”において、肥大した脂肪細胞からのアディポサイトカインという物質の分泌異常生活習慣病の発症血管、臓器の直接的障害がんの発症に関連するという細胞レベルの仕組みについて書きました。しかし目に見えない身体の中の細かな現象のことでもあり、今一つピンとこなかった人も多かったかもしれません。そこで、今回は、もう少し解り易い?統計的な数値による、“肥満がよくないことの根拠となり得る興味深いデータ”の一部を紹介しましょう。


 沖縄県は、その温暖な気候やご当地の伝統料理などから、いまだに健康長寿の県というイメージがありますが、なんと、現在、太っている人の一番多い県となっているのです。これを聞いて、驚くと同時に「じゃあ肥満は寿命には関係ないのでは?」と思われる方もおられるかもしれません。確かに、沖縄県は、ひと昔前の1985年までは、名実ともに長寿日本一でしたが、1995年には男性の平均寿命が4位、そしてそのわずか5年後2000年にはなんと26位(2010年には29位)まで一気に低下してしまったのです。そして、2005年の調査では、さらに定年(65歳)前に死亡する割合は沖縄の男性が日本一となってしまいました。これら一連の現象は沖縄クライシスと呼ばれ、当時有名となりましたが、その背景には、米国統治下の1950年にいち早く沖縄にファストフードが上陸し、現在ではファストフード店人口比率も日本一となっていることも無関係ではないといわれています。そして、沖縄から遅れること20年1970年に本土にもファストフードが上陸しましたが、最近、肥満の小児が増えて30年間で約3倍となり7歳の小児の4割は肥満、そして思春期の肥満は7~8割が成人の肥満に移行し、現在30歳~69歳成人の約3割が肥満であると言われます。そして40歳時に過体重であれば生命予後は3年短くなり、肥満になると6~7年は短くなるとされています。


 これらから、平均寿命の急激な低下現象は、なにも沖縄に限ったことではなく、近い将来(2005+20=2025?年頃)、日本全体において生じる可能性のある現象として危惧されているのです。


 ただ誤解のないようにここに書きますが、私は、日本における肥満の増加は、何もファストフードのみが原因ではなく食の欧米化全体、さらに運動不足となり易い環境など社会全体の問題であると考えています。またファストフード店を決して頭から否定するわけではなく、むしろ、多忙で迅速さが要求され、且つストレスフルな現代社会において、美味しくてすぐ食べられるものを提供してきたという意味では社会貢献度も高かったと思います(私も家族も時々お世話になります)。要は、まず、食べる側においては、ファストフードとどのように付き合いどのように利用して行くかということであって、決して便利さに甘え、偏ることのないように努めることが大切であり、提供する側においても肥満に配慮した提供の仕方(調理法、素材、健康に関する啓蒙活動等)においてさらなる工夫をして頂きたいと思うのです。
さて、今回は、長寿の秘訣として、「太っていることはよくない」ということについて書いてきましたが、ならば逆に、どの様な方法を使ってでも、とにかく「痩せることがよい」と単純に言って良いのでしょうか?。次回はこの辺りについて、最近話題の長寿ホルモン(アディポネクチン)についても絡めながら書いてみたいと思います。