コラム

JunJun先生の第5回 Jun環器講座

心筋梗塞 〜心筋梗塞はどのようにして起きるのでしょう(その2)〜

循環器内科 中川 順市

先回は、心筋梗塞の起こり方として昔から言われてきたタイプについて書きました(動脈硬化の進行により徐々に冠動脈が硬く・細くなっていき最終的に詰まるタイプ)。しかしながら、現在、起き方の主流となりつつあり、且つ問題となっているタイプはこれではありません。 色々な分野の第一線で活躍している中高年の比較的若い年齢層に、ほとんど前触れもなくいきなり起き、一旦発症すれば即、死と隣り合わせの状況になる、これが今増えてきている心筋梗塞の特徴です(怖いですね)。

このタイプでは、一見それほど細くなってない冠動脈でも、その内側の壁(内膜)の下にプラークというブヨブヨのコレステロールの塊が溜まっていることがあり、それを覆っている内膜が何らかの原因で傷つくことにより、そのプラークが突然爆ぜ、血管の中に出血する、すると血管の中でその出血を止めようとする血小板等が集まり栓を作ろうとします。これを“血栓(けっせん)”と言いますが、これが径3~4mm程度の冠動脈の中で急速に湧いて大きくなると、先程まで充分な流れのあった血管をいきなり完全に塞いでしまい心筋梗塞となるのです。 しばらくして自然に血栓が溶けて詰まりが取れることもありますが、その場合、すぐに詰まりが取れたのなら良いのですが…、中途半端に一定の時間経過してから詰まりが取れ急に血流が再開すると、心臓の筋肉がびっくりして痙攣をおこし、それが心臓全体に拡がってしまうことがあります。長い間正座をしていて、足の血液循環が悪くなり、いわゆる“痺れが切れた”状況で急に立ち上がると足がつったり痙攣したりして、“座っていたときよりも立ってからの方がつらくて歩行ができない”というのと似ています。 痙攣をおこした心臓は血液をまともに脳や全身に送れるはずもなく、せっかく詰まりが取れたにもかかわらず意識を失い、最悪死に至る場合もあるのです。

この起こりかたのタイプは、加齢に伴い徐々に硬くなった血管より、血管がまだ若いうちから高いコレステロール濃度にさらされ、比較的速い速度で血管の壁の内側に軟らかなコレステロールが溜まったケースに起こりやすいというのは想像できますね。ですから比較的若い人の心筋梗塞 → 突然死にはこのパターンが多いのはご理解頂けるでしょう。

内膜が傷つく原因ははっきりわかっていませんが、従来から悪玉コレステロール、喫煙、が言われており、特に“ストレス”と“寒暖の差”によって傷つき易いことがわかっています。 前回書いたサッカー選手のことですが、彼はプロであり、おそらく自身の健康管理についてはほぼ問題なかったと考えます。ではなぜ心筋梗塞で急に亡くなってしまったのでしょう。これはあくまで私見ですが… プラークが殆どなくても“内膜を傷つける力”の方が強ければ内膜は破れ血栓は出来ます。適度な有酸素運動は動脈硬化を予防すると言われていますが、サッカーはかなり激しいスポーツであり、それを生業とすることによる過度の酸素摂取はかえって“老化の素”として知られる“活性酸素”という物質を体内に急速・多量に発生させることがあります。 この活性酸素も内膜を傷つけることがわかっており、スポーツ選手として勝負の世界に生きるが故、某かの肉体的・精神的ストレスも加わって、冠動脈の幹の太いところで内膜が傷ついたのではないかと想像するのです。冠動脈を木の枝に喩えてみると、酸素や栄養の遮断が枝の先っぽの方で起きた場合には、枝先の葉が数枚落ちる程度の被害で済み、木(心臓)全体に対する影響は非常に少なく、場合によっては症状すら感じないことでしょう。 しかしそれが幹でおこれば木全体が枯れてしまう…。つまり、前回の話も含め、心筋梗塞と一口に言ってもその“起き方”や 冠動脈の“どの場所で詰まったか”によって、その後の状態にかなりの差があるとも言えるのです。

(続く)