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JunJun先生の第26回 Jun環器講座 仮面船戸クリニック 循環器内科 中川 順市
皆さんは、“仮面”と聞くとどのようなことを思い浮かべますか。私は、幼少の頃、観たり読んだりした子供向けのテレビ番組や漫画・小説の中で活躍した、仮面をつけたヒーローが真っ先に頭に浮かびます。(月光仮面、仮面ライダー、仮面の忍者赤影・・・)。そして仮面により強調される主人公のナゾの部分や秘匿性に、幼いながら惹きつけられ、非常に興奮したことを思い出します。 高血圧症のなかに、仮面高血圧とよばれるものがあり、“仮面”という言葉のつくそのネーミングから、私とほぼ同世代(昭和35年~45年生まれ)の方の中には、私同様にインナーチャイルド(自分の中の子供の部分)が刺激され、一度聞けば忘れないほどのインパクトを感じる方もおられるのではないでしょうか。また、ちょうど血圧が気になりだす年代でもあることもあり、すでにその名前だけはご存知の方も多いかもしれません。 しかし、名前のインパクトは強いものの、正確にどういうものか解らなかったり、誤解して覚えてしまっている方も時々おられます。日本語病名である“仮面高血圧”は英語病名の“masked hypertension”の翻訳です。maskedには“仮面をかぶった”という意味と“隠れた”という意味があります。ですから直訳ですと“仮面をかぶった高血圧”、もしくは“隠れた高血圧”ということになります。 ですから、“本当は高血圧があるのにマスクで隠されてしまっているので危険である”というものなのです。 いかがでしょうか、日本語で“仮面をかぶった”の“かぶった”を省略して、“仮面高血圧”とされた翻訳の印象ですと、ともすれば誤って、“偽者の高血圧”という印象をもってしまい、“高血圧に見えるけど実は高血圧ではない”という逆の意味にとらえてしまう方もおられるのではないでしょうか。ですから、医師としての私は、翻訳においては“仮面高血圧”よりは“隠れ高血圧”とするのが理解されやすく誤解もないのではないかと思っています。 でも、一方で“仮面高血圧”の方が、ネーミングとしては私(私の同世代の人も含め)にとってインパクトがあり、何故か異をとなえるつもりには全くなりません。なぜなら、私のインナーチャイルドは“仮面”が大好きだからです(笑)。 “仮面高血圧”は、具体的にはどのようなものかというと、フナクリ通信の私の外来診療紹介の欄に定期的に載るのでご存知の方も多いと思いますが、“診察室では血圧が正常なのに、診察室以外では血圧が高いもの”をいいます。特に夜間から早朝の血圧が高いものが、脳梗塞、心筋梗塞を起こしやすく危険とされています。しかし、診察室では血圧が正常なので、患者さんのみならず医者も、しばしば、その正常血圧の顔をした“仮面”に騙されるのです。ですから“仮面高血圧”の発見には、患者さんが自ら行う家庭における、朝、寝る前の血圧測定が重要になります。 他にも“仮面”のついた日本語病名で有名なものに“仮面うつ病”がありますが、これについても誤解している方が時々おられます。“masked depression(うつ)”が英語病名ですが、直訳ですと“仮面をかぶったうつ病”、“隠れたうつ病”ということになり、決して“偽者のうつ病”や“仮面のように表情の乏しいうつ病患者”のことではなく、根本にある精神疾患の“うつ病”が身体疾患をうかがわせる症状によって隠されてしまっている状態をいいます。 例えば、動悸や胸の痛みなど一見“循環器の病気”を思わせる症状があり、それについて医者が一生懸命しらべても原因がわからず、実はその根本に“うつ病”が隠れているというように、身体疾患の“仮面”をかぶった“うつ病”に騙されてしまうのです。 これら“仮面”の名のつく二つの病気、決して“月光仮面”のようなヒーローではなく、むしろ、敵役の“ドクロ仮面”のような“仮面”をかぶった悪役ですね。その正体を見破り、騙されないよう気をつけたいものです。 |
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