コラム

きらめく自分になるために

船戸崇史

2000年になりました。21世紀まで残すところあと1年ですね。

本当の世紀末をむかえ、皆さんに是非お願いしたいことがあります。

それは、今より、より素敵に輝いてほしいという事です。そして、その為に、「死」について、是非考えをめぐらせて頂きたいということです。「え?死について考えることが素敵な自分になることと関係あるの?」と聞かれそうですが、まさにその通りです。あなた自身の、そして大切な家族の「死」。兎角、忌み嫌われてきた言葉ですが、最近殊に在宅医療のなかで末期を見取らせていただく機会が増えるにつれ、素敵に生きるために一番大切なことが、「死」をどこまで深く考えているかではないかと感じているからです。

自分の「死」を考えたとき、かならず自分の歩んできた道のりを振り返られることでしょう。そして、知らないうちにその意味ずけをされる事と思います。色々な不思議が見えてきます。本当に偶然の連鎖のような人生の果てに今の自分が生かされています。自分にとって余りに辛かった出来事も、死を前にすると俄然色褪せ・・恨んでいた気持ちもつまらない事のように薄く軽くなってゆき、時には懐かしい思い出や、そのお陰で気が付けたと感謝にすら変わることもあるでしょう。そうです、「ありがとう」という言葉が自然とあふれ涙が出ます。
 家族の死を考えたとき、その家族と自分との係わりを思い返します。同じ家族としての思い出。一緒にいて楽しかった事、辛かったことの全て。共有する時間が長かった家族ほど、思い出も多い。その共有した時間こそが、他でもない自分の証であり家族の証です。何か曰く言いがたい、ズ-と以前から知っていた、会いたかったという様な思いが懐かしさと一緒にあふれ涙が出ます。

殊に末期の患者さんのなかでは、この様な心のドラマを伺い知ることが出来ます。在宅のなかでは、その患者さんがどの様に生きて死んで往かれたかという事が、最も大切にされるべきですが、その後に残された家族が、傷心をかかえどの様に生きて行くのかも同時に大切にされるべきだと思っています。患者さんがお元気なうちに、「死」を見越し、その後のことまで話し合われておいでのご家族は、患者さんの死後、故人の意志を継いで生きようとされます。決して遺言を守るということではなく、故人への思い出や感謝の言葉を糧に、故人のしたかった意志を継ごうとされます。その一生をかけて、共同体を守ろうとされた人、人の為に尽くそうとされた人・・などなど。そこには、本来の本当の人間の姿を垣間見る思いが致します。勿論、決して「死」について思いを馳せた人のみが家族へ遺産が残せると言うわけではありません。長く共に歩んだ歴史のなかに、すでに言葉を超えた遺産は良い悪いを問わずすでに家族の中には流れこんでいるものです。それは、その人の言葉を超えて、もっと無意識的です。後ろ姿です。その人が、どれだけ「死」について深めておいでかは、その人の後ろ姿にこそ顕れます。家族は、それを言葉を超えて受けとめます。今、生きているその瞬間から、刻々とあなたの遺産を家族に伝えているといっても過言ではないのです。
ですから、年の始めに、世紀末だからこそ、今一度自分の後ろ姿を確認し、今一度自分を深める旅にお出かけください。
きっとその分、素敵なきらめく自分になることでしょう。

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